第2話「恋人という関係の耐えられない軽さ」
恋愛経験が無かった頃の俺は、恋人、つまり彼女を作ることは大変なことであって、社会人になり、女性の少ない会社で普通に生活していたのでは、絶対に達成できないことだと考えていた。
そして、それだけ大変な思いをして(女から見れば厳選をして)作る恋人というのは、体の関係も持つものであり、その繋がりの深さ、絆は友人以上で、とても強いものであるはずだと信じていた。
彼氏彼女を取っ替え引っ替え、なんてのは一部のチャラい人達の間だけでの話であり、付き合うことになったら、普通は長く付き合うのが当たり前だと思い込んでいた。
自分は、彼女が出来たら絶対大切にするし、すぐに別れるなんてありえない、浮気なんて以ての外だと考えていた。
〜以下回想〜
一応前回の記事http://takoyaki33kun.hatenadiary.jp/entry/2016/02/22/121755の続きとなっています。
ようやく市場に一歩踏み出した俺は、とにかく合コンと聞けば参加するようになった。
合コンを開いてくれそうな同僚に、開催をお願いしたり、非モテなりに出来る限りのことをやろうともがいていた。
その過程で何度かデートする相手が現れたり、全くタイプではない子に好意を持たれたりと、色々な経験をしながら半年近くが経った頃、ある合コンで一人の女の子と出会った。
今思えば、ルックス的には中の中、人によっては中の上つけるかな?というレベルだったのだけど、合コンというのは絶対評価ではなく、相対評価で見られるものであり、”その会では”とにかくその子が輝いて見えていた(笑)
当日はあまり話さない大人しい子という印象だった。
話をしたい気持ちは山々だったが、多少女慣れしたとはいえ、元々ガチ非モテの素人童貞である俺のコミュ力では彼女の心を開くことは出来ず、結局多少話をしただけで会は終わってしまったのだ。
おそらく、俺の存在は彼女の記憶にはほとんど残っていないだろうと思った俺は、合コン名物「とりあえずのお疲れ様ライン」を送っただけで、放置していた。
・・・というのは建前で、非モテ故、可愛いと感じた子をデートに誘う事にすら、ビビっていたのだw
後日、会社の先輩との会話の中で
「お前最近合コンとか頑張ってるらしいじゃん。どう?可愛い子いた?」
「結構可愛い子いたんですけど、あんまり話せなかったので、一対一じゃ会えなそうかなと思って、挨拶ラインだけ送ってそのままになってます。それと、仕事が不定休らしいんで、休み合うかなって思ってしまって。」
行動しないための言い訳がポンポン出る非モテさくらい。
「お前wダメ元で誘うだろ普通。とりあえず誘ってみろって。」
酒の勢いもあり、先輩から言われた通り誘ってみると、なんと直近の休みで予定が合い、デートが決まったのだ!
ダメ元の大切さを俺は痛感した。
旧友の中で唯一非モテを脱し、ちょいモテ男になっていた友人に店を教わり、昼からアポを取った俺は、集合場所でその子を待った。
(先日の合コンという畑の中で、唯一咲いていた花ということで、その子の名前を美咲としよう。)
待ち合わせ場所に現れた美咲は以前と打って変わってテンションが高かった。
正確には、変にテンションが高かった。
予約していた店に着いて(学習した俺はアポ前に店までのルートを確認し、二度と迷わない男になっていた(キリッ)、話を聞いている内に意外なことがわかった。
美咲は女子校の出身で、今まで彼氏がいたことがなく、デートの経験もほとんど無かったのだ。
変に高いテンションはそのせいだったようだ。
彼女は意外とよく喋る子で、趣味や好きなものの話などで盛り上がった。
その後店を変え、世界最先端のカフェ、スタ○に移動した俺は、非モテのモテテクルーティーン、「言われずとも買う」により、スコーンを買った。
もちろんコーヒーも奢りだ。ついでに言えば昼食も(笑)
好感度は確実に上がっている。そう思いこんでいるので、出費など痛くもかゆくも無かった。
ここで一旦話を変えるが
時に、非モテ男は解散のタイミングを見失い、ダラダラ過ごしすぎて盛り下がってしまうことがある。
別に長く楽しく過ごせるなら、それはそれで問題ない。それが出来るモテ男なら。
ただ、非モテは長い時間を過ごすと盛り下がっていくから良くないのだ・・・
例に漏れず、その日俺は盛り下がりつつある中で未練がましく夕飯まで一緒に食べていた。
可愛い子と楽しい時間を過ごせる事が嬉しくて、帰りたく無かったのだ。
そうしてるうちに美咲に突然
(非モテは観察力が身に付いていないため、帰りたそうにしている様子に気づかない)
「そろそろ帰るね」と一言言われてしまい、その日は解散となった。
嫌な予感がしたが、ラインが途切れることはなく、二回目のデートにこぎつけることが出来た。
次のデートでは、興味があると言われた映画を観に行った。
もちろんチケットを早めに予約し、彼女が遅刻してもいいように、先に劇場でチケットを発行して待ち合わせ場所に集合していた。
正に執事のようだった。
俺は世間でよく言われている「気が利く男はモテる」を意識し愚直に実行していたのだ。
彼女が目が痛いと言えば、新品の目薬を差し出し、鼻をすすったと思ったらティッシュを差し出した。
媚びまくりの妖精もどき、コビーと化していた。
その後もデート、ラインを続けていたある日のこと、合コンの幹事だった子(美咲とは初対面だったらしい。)から連絡が入る。
「最近、美咲ちゃんと会ってるらしいね。気になってるんだったら仕方ないけど、あんまり私は勧めないかも・・・」
「なんでそんなこと言うの?」
「あの子、他の男の人とも会ってるみたいだし、友達(美咲の先輩)も何考えてるかよくわからない子だって言ってるんだよね」
俺はサーっと血の気が引いた。他の男とも会っているなんて。(素人童帝はいくつになってもピュアなのだ)
しかし、美咲が変な女だなんて信じたくない気持ちの方が強かった。
そして
「俺はもう何度も会ってるし、他の男とだってごはんくらいなら行くでしょ。大丈夫だよ。」
と返した。もちろん顔面蒼白である。何なら白目剥いてウンコ漏れかけてる。
その後もデートを続けた俺は、ついに5回目のデートのディナーの際、美咲がトイレに行った隙に会計を済ませ、もう帰ろうかという時に、
「ちょっと待って!時間くれない?」
と彼女を制し、勇気を振り絞って人生初の告白をした。
彼女は数秒の沈黙の後、確かに
「よろしくお願いします」
と返してくれた。
初めて合コンに参加し、本格的に恋愛活動を始めてから約7ヶ月が経っていた。
齢2○にして、遂に人生初の彼女ができた俺は、喜びで軽く放心状態になった。
その後さも当たり前のように会計済みのレジ前を通り過ぎ
「いいんだよ。会計なんて(キリッ」
とかっこつけ、店を出て少し歩いた辺りで
「せっかく付き合ったんだし」
と人生初の手繋ぎ打診をし、小中学校のフォークダンス以来、かつプライベートにおいて初の手繋ぎをできた喜びに震えまくった。
この時西野カ○比5倍は震えていたと思う。
君が手を繋いだその時から
何もかもが違く見えたんだ
街の光も涙も歌う声も君が輝きをくれたんだ
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正にスーパー奏(かなで)ラスサビタイム。
付き合ってからはラインの楽しさも倍増していた。
「美咲とラインしてると、仕事頑張ろうって気持ちになるよ!」みたいな気持ち悪い惚気ラインをマシンガンのように連発していた。
愛情表現は出し惜しみしないほうが良いと思っていたからだ。
数週間が経ち・・・
美咲とは出身県が一緒だったこともあり、彼女が次の休みは実家帰省するとのことだったので、俺は帰るつもりなど全くなかったが「俺もその日帰ろうと思ってたんだ!○駅までは一緒だよね?そこで会おうよ!」
と誘った。
返事はイエス。
俺は一緒に夕飯を食べようとワクワクしていたのだが、いざ合流すると
「え?ただ会うだけだと思ってて・・・ご飯は実家で食べるつもりだったんだ。ゴメンね。」
と言われてしまった。
俺は仕方なく、遠回りではあるが彼女の最寄駅までということで、一緒に電車に乗ることにした。
(普通、付き合いたてのカップルなら会う=ご飯くらい一緒に食べようってなるもんじゃないのか?と俺は疑問に感じたが、言い出せなかった。)
電車内で話はするが、美咲はこちらに目を向けない。
なんとなく、楽しくなさそうな様子が見られた。
それからしばらくして、徐々に美咲からの連絡の頻度が落ち始めた。
俺は嫌な予感がしながらも、仕事が忙しいんだろうなと思い、問い詰めはしなかった。
もちろん俺は即レスだったこということは言うまでもない。
その後何度か予定を合わせてデートしたが、あまり盛り上がらない事が多く、夕飯前に帰ってしまうこともあった。
会計を頑なに払う場面も出てきた。
一ヶ月半が過ぎた頃、会う約束をしようとした際に
「その日は行けるかどうかわからない、近くなったら連絡する」と返され、結局そのまま前日になってしまうということがあった。
この時流石に俺もこのままじゃいけないと思い
「結局来れるの?来れないの?俺、休み空けて待ってるんだよ?」
と初めて少し不満をあらわにしたラインを送った。
(この日は、入る可能性がある別の予定があった)
その後、
「やっぱり明日は行けない。だけど、16日(一週間後)は、前々から約束してた東京ドームシティ行こうね」と返ってきた。
それに対してわかったとだけ返し、特に咎めることはしなかった。
そして、16日を楽しみにしていた。
その数日後、有給休暇を取り、免許更新のために順番待ちをしている俺の携帯に、「ごめんなさい。」と何故か敬語で始まるラインの通知が表示された。
嫌な予感がした。
ごめんなさい。やっぱり16日は行けません。から始まるその長文ラインは、要約すると
俺のことは元々好きではなかった。
好きだと嘘をついて付き合っていた。
付き合えば好きになれるかと思ったが、結局なれなかった。
これ以上は付き合えません。
ごめんなさい。
ということだった。
聞いたことはあった。
好きじゃなくても付き合うことはあると。
その内好きになることもある。
そうでないこともあると。
今思えば、俺はそれが最初に当たってしまっただけのことだ。
しかし、自分は燃え上がっているというのに、初めてできた彼女に突然別れを告げられてしまった当時の俺は、凄まじいショックを受けた。
確かに、前々から兆候はあった。
認めたく無かっただけで、薄々勘付いてはいた。
彼女に気がないことは。
だから、追いすがりはしなかった。
あれだけ試行錯誤して、金も時間も気持ちも費やして、ようやく付き合えた彼女が、友人よりも遥かに強い絆で結ばれていく関係だと思っていたものが、一通のラインで消えて無くなってしまった。
恋人関係の、何と軽い事か。
僕らは同じところにいても、全く繋がっていけなかった。
奏タイム、ウソやん。
そもそも付き合うというのは、ただの口約束でしかない。
片方にその気が無くなったら、その時点で、簡単に破綻してしまう。
ある意味当たり前の事実に、早い人なら高校生でも知っていることに、俺はようやっと気がついた。
気づかされた。
納得は、全くできなかったけれど。
ラインを読んでいて、だんだんと、全身から血の気が引いていった。
冷や汗が噴き出す。
そのうちに、写真撮影の順番がやってきた。
俺はその状態で免許の写真を撮らざるを得なかった。
俺の免許証には、恋人という関係に抱いていた幻想を打ち砕かれ、その絆の脆さと儚さに落胆し、この世の終わりのような顔をした童貞男の顔と、初の失恋記念日が刻印されている。